妊婦の肩こり・腰痛について

妊婦

妊娠中はホルモンバランスや体型の変化により、さまざまな不調が現れやすくなります。その中でも肩こりや腰痛は特に多くの妊婦さんが悩まされる症状です。

厚生労働省の調査によると、妊娠中の自覚症状で「腰痛」は非常に多く(※1)、実際に約7割以上の妊婦が肩こり・腰痛を経験しているともいわれています。

本記事では、妊婦特有の肩こり・腰痛が起こるメカニズムや安全なセルフケア、整体・治療法について、専門的な知見と信頼性のある情報源を元に解説します。

  1. 妊娠中に肩こりや腰痛が起こる主な原因とは?
    1. ホルモン変化による靭帯の弛緩と骨盤・脊柱の機能不安定性
    2. 重心変化と骨盤前傾による筋骨格系ストレスの集中
    3. 血行不良と自律神経系の機能異常による筋硬結
    4. 妊婦にとって整体はリスク?それとも安心?
  2. 妊娠中の安全な整体について
    1. 施術を受ける時期:妊娠16週以降(安定期)が推奨
    2. 妊婦向けの専門施術が受けられる施設を選ぶ
    3. ■ 強い圧迫・急激な牽引・骨格矯正(スラスト法)
    4. ■ うつ伏せ姿勢(腹臥位)を必要とする施術
    5. ■ 長時間にわたる施術
  3. 産婦人科との密な連携が不可欠
  4. 妊婦でもできる肩こり・腰痛セルフケア法
    1. 筋骨格系アプローチ|解剖学に基づく妊婦向けストレッチ法
      1. 肩甲帯へのモビリティアプローチ
        1. 肩甲骨内転エクササイズ
      2. 骨盤帯ストレッチ
        1. 四つ這いでのキャット&カウ
    2. 循環器系アプローチ|温熱療法による血流促進
      1. ホットパック or 蒸しタオル使用
    3. 装具療法アプローチ|骨盤ベルトによる外的安定性補助
      1. 骨盤ベルト装着のポイント
    4. 4. 自律神経系アプローチ|呼吸法とマインドフルネスによる神経調整
      1. 妊婦向け呼吸法
  5. 病院に相談すべきケース|医療的リスクを見逃さないために
    1. 激しい腰痛や下腹部痛を伴う場合
    2. 腰痛と同時に性器出血がある場合
    3. 下肢や殿部へのしびれ・麻痺がある場合
    4. 安静にしても痛みが引かない、もしくは時間とともに悪化する場合
  6. まとめ|妊娠中の肩こり・腰痛は“仕方ない”ではなく“対策できる”症状

妊娠中に肩こりや腰痛が起こる主な原因とは?

妊娠中に生じる肩こりや腰痛は、単なる姿勢の問題や筋肉疲労にとどまらず、ホルモンの変化、関節構造の不安定化、筋膜系の機能不全、血流・神経支配の変調といった多要因の相互作用によって発症する「全身的な構造変化の結果」と捉えるべきです。

以下では、主に臨床で頻出する3つの要因を、深部筋・自律神経・関節構造と神経運動制御の観点から掘り下げて解説します。


ホルモン変化による靭帯の弛緩と骨盤・脊柱の機能不安定性

妊娠中、胎盤や卵巣から分泌される「リラキシン(Relaxin)」は、恥骨結合や仙腸関節の靭帯結合を弛緩させ、分娩に必要な骨盤の可動域を確保する生理的メカニズムを担います。特に妊娠6週以降から分泌が始まり、ピークは妊娠12〜17週頃に観察されることが多いとされています(※1)。

リラキシンは骨盤に限らず、全身の靭帯や腱、関節包、筋膜にも作用するため、股関節や脊柱、足関節などの運動連鎖に関与する部位の可動性が高まりすぎることにより、筋機能による関節制御が破綻しやすくなるのです(※2)。

特に不安定性が顕著になる部位は:

  • 仙腸関節(SIJ):支持機能の低下により「ズレ感」や片側性の鋭い腰痛を生じる
  • 腰仙関節(L5/S1):前弯が強調されることで、椎間板や椎間関節への圧力が増加
  • 腸腰筋・内転筋・梨状筋:骨盤を安定させる筋肉が過緊張または機能低下により痛みを誘発

こうした不安定性が、慢性的な腰痛、殿部痛、さらには坐骨神経様の関連痛(放散痛)へと進展するケースもあります。

※1: MacLennan AH, et al. “Serum relaxin levels in pregnancy.” Am J Obstet Gynecol. 1986
※2: Wu WH, Meijer OG, et al. “Pregnancy-related pelvic girdle pain.” Eur Spine J. 2004


重心変化と骨盤前傾による筋骨格系ストレスの集中

妊娠中期から後期にかけて胎児の成長に伴い、母体の重心は約2〜5cm前方に移動すると言われています(※3)。これに伴い、妊婦の立位姿勢には以下のような変化が生じます:

  • 骨盤前傾の増加
  • 腰椎前弯の増強
  • 胸椎後弯の代償性増加
  • 頭部前方突出

これらの姿勢変化は、筋膜連鎖の不均衡を生み、以下のような筋緊張と疲労を引き起こします

筋肉過緊張 or 弱化症状への影響
腸腰筋短縮(過緊張)骨盤の前傾助長、腰椎圧迫
腹横筋・多裂筋機能低下体幹の支持力低下、腰痛誘発
僧帽筋上部・肩甲挙筋過緊張肩こり、頭重感、後頭部痛
広背筋・殿筋群弱化または過緊張骨盤の不安定化、股関節可動制限

特に「腹直筋離開」が進行すると、体幹の圧力調整が困難となり、腹圧・腰圧のバランスが崩れ、反り腰が悪化しやすくなります

※3: Franklin ME, et al. “Musculoskeletal changes in pregnancy.” J Women’s Health Phys Ther. 2008
※4: Spitznagle TM, et al. “Diastasis recti abdominis in the postpartum period.” J Women’s Health Phys Ther. 2007


血行不良と自律神経系の機能異常による筋硬結

妊娠中は静脈のうっ滞や血管拡張による末梢循環の不安定さがあり、特に首肩周囲の筋肉群では血流不足による代謝異常(筋虚血)が起こりやすくなります。

加えて、妊娠後期になると交感神経優位の状態が長引きやすくなり、以下のような自律神経症状が肩こりを誘発します:

  • 筋細胞の代謝低下 → ATP不足による筋収縮の持続
  • 血管収縮 → 僧帽筋・胸鎖乳突筋の硬結形成
  • 睡眠障害 → ノルアドレナリン分泌の増加 → 筋緊張の慢性化

特に、精神的な不安や出産に対する恐怖心が強い妊婦では、筋緊張が心理的ストレス反応として体表に現れることが臨床的にも確認されています。

※5: Field T. “Prenatal depression and anxiety effects on the fetus and neonate.” Infant Behav Dev. 2011

妊婦にとって整体はリスク?それとも安心?

妊娠中に感じやすい肩こり・腰痛・骨盤周囲の不快感などに対して、「整体を受けても大丈夫なのだろうか?」と不安に感じる方は少なくありません。

結論から言えば、適切な時期と施術内容を選べば、妊娠中でも整体は安全に受けられます。むしろ心身の負担を軽減するために有効な手段となることもあります。

しかし、施術を受けるにはいくつかの医学的・施術的な条件を満たしている必要があります。以下に、妊婦が整体を安全に受けるために押さえておきたいポイントを整理します。


妊娠中の安全な整体について

妊娠中の女性の身体は、ホルモンバランスの変化や姿勢の変化、筋肉・関節への負担増加など、通常とはまったく異なる状態にあります。そのため、整体を受けることに対して「本当に安全なのか?」「赤ちゃんに影響はないのか?」といった不安を抱えるのは自然なことです。

実際に、間違った施術や体勢によって体調が悪化したり、逆に良かれと思って受けた施術が母体にストレスを与えてしまうケースもゼロではありません。一方で、妊婦特有の不調に寄り添い、安全な方法でケアを行えば、整体は妊娠中の身体的・精神的ストレスを大きく軽減する効果的なサポート手段となります。

重要なのは、「いつ、どこで、どのように施術を受けるか」という判断です。次章では、妊婦が安心して整体を受けるための具体的な条件や注意点を詳しく解説していきます。

施術を受ける時期:妊娠16週以降(安定期)が推奨

妊娠初期(〜15週)は、胎盤形成が不安定で、つわりや体調の変動も激しい時期です。整体による身体刺激が、自律神経系の乱れや子宮収縮リスクを高める可能性があるため、この時期の施術は原則的に控えるべきとされています。

妊娠16週以降(安定期)になると、胎盤が完成し、ホルモンバランスや内臓機能も安定しやすくなるため、この時期からの整体施術が望ましいとされています。

日本助産師会「妊娠中の施術・運動指導に関する注意」2023年版ガイドライン


妊婦向けの専門施術が受けられる施設を選ぶ

妊婦に対する整体施術は、通常の手技療法とはアプローチや禁忌事項が大きく異なります。以下のような要素を備えた整体院・治療院を選ぶと安心です。

  • マタニティ整体専門の認定資格を保有している施術者がいる
    → 例:一般社団法人日本マタニティ整体協会、NPO法人日本妊産婦整体協会などの認定資格
  • 妊婦専用の横向き・仰向け施術に対応
    → うつ伏せを避け、腹部を圧迫しない体勢を確保
  • 医師や助産師との連携体制が整っている施設
    → 産婦人科と連携していると、万が一の際も適切な判断が可能

また、カウンセリング時に以下の点を確認してくれる施設は信頼度が高いです。

  • 産科医の診断でリスク妊娠でないかを事前確認する
  • 妊娠週数・胎児の発育状況・既往歴などをヒアリング
  • 強い刺激を避ける方針を明示している

一般社団法人 日本マタニティ整体協会公式ガイドライン(2022)

]妊婦が避けるべき施術とは?

妊娠中の身体は、ホルモンや体重、内臓配置、血流、神経系など、さまざまな面で急激な変化と適応を強いられる時期であるため、整体施術においても一般の成人とはまったく異なるリスク管理が求められます。

とくに、以下のような施術は、胎児や母体の生理機能に悪影響を及ぼす可能性があるため、厳重に回避すべき施術です。


■ 強い圧迫・急激な牽引・骨格矯正(スラスト法)

妊娠中に分泌が増加する「リラキシン」の作用により、靭帯は全身的に弛緩しており、関節の可動性が過剰な状態にあります。この状態で、いわゆる「ボキッ」「バキッ」と音を鳴らす高速低振幅スラスト(HVLA)テクニックを行うと、関節包損傷や靭帯損傷、筋反射異常を引き起こすリスクが高くなります(※1)。

さらに、骨盤矯正・骨格矯正・脊椎マニピュレーションなどは、骨盤輪や仙腸関節の安定性が低い妊婦にとっては不適切な力学的負荷となり、かえって痛みや歩行困難、子宮収縮を招くことがあります。

また、腹部や腰部への強い押圧は、物理的に子宮を刺激し、子宮筋の緊張や血管圧迫を誘発する可能性があり、胎児の酸素供給や胎盤循環に悪影響を及ぼす懸念も指摘されています(※2)。

※1: Vleeming A, Albert HB, et al. “European guidelines for the diagnosis and treatment of pelvic girdle pain.” Eur Spine J. 2008
※2: MacLennan AH, et al. “Effects of relaxin on the musculoskeletal system during pregnancy.” Br J Obstet Gynaecol. 1986


■ うつ伏せ姿勢(腹臥位)を必要とする施術

妊娠中期〜後期の女性の子宮は大きくなり、腹臥位になることで子宮を直接圧迫する状態となります。これにより、**下大静脈の圧迫(仰臥位低血圧症候群)**が起こりやすくなり、母体の血圧低下・眩暈・悪心・胎児の一過性低酸素状態を引き起こすことがあります(※3)。

この状態では、たとえクッションを用いていても腹部が押し上げられる構造になっていれば危険性は残ります。そのため、妊婦整体ではシムス位(左側臥位)や膝立ち座位、半座位(45°リクライニング)など、血流を妨げず、腹部圧迫を避けられる体位での施術が必須です。

※3: Kinsella SM, et al. “Supine hypotensive syndrome: a review.” Obstet Gynecol. 1990


■ 長時間にわたる施術

妊娠中は静脈系の圧迫や循環血液量の変化により、下肢静脈の還流が悪化しやすい状態にあります。長時間横たわったままの状態が続くと、下肢のうっ血・浮腫だけでなく、**下肢静脈瘤や血栓症(DVT)**のリスクを高める要因となります(※4)。

また、体勢を一定に保つことによって仙腸関節周辺に局所的な負荷が集中しやすくなるため、30〜45分以内の短時間施術が望ましいとされます。とくに、妊娠後期では胎児の位置や母体の体型に合わせて体位を頻繁に調整しながら進めるべきです。

※4: James AH. “Venous thromboembolism in pregnancy.” Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2009


産婦人科との密な連携が不可欠

妊娠中は、外見からはわからないさまざまなリスクが潜んでいるため、産婦人科医の許可なく施術を行うことは避けるべきです。とくに以下の状態は、医学的な禁忌や慎重な観察が必要です:

  • 切迫早産や流産歴のある妊婦:子宮頸管が短く、施術中の振動や圧迫が子宮収縮を促す可能性
  • 妊娠高血圧症候群(PIH):血管反応が過敏なため、血圧変動を誘発するリスク
  • 前置胎盤:刺激や体位変化による出血リスク
  • 多胎妊娠:腹腔内圧上昇の影響が顕著で、循環不全や早産リスクが高い

このような場合、施術の可否を医師が医学的根拠に基づいて判断する必要があります。整体施術者側も、問診で既往歴や妊娠週数、医師の許可の有無を必ず確認する体制を整えておくべきです。

妊婦でもできる肩こり・腰痛セルフケア法

専門的根拠に基づいた、安全かつ実践的なアプローチ

妊娠中の肩こりや腰痛は、多くの妊婦が抱える代表的な身体的不調であり、特に妊娠中期から後期にかけて顕著に現れます(※1)。しかし妊婦は薬物療法に制限があり、かつ整体施術にも慎重さが求められるため、セルフケアの有効性と安全性が非常に重要な位置を占めます

以下では、理学療法・解剖生理学・母性看護学・東洋医学の観点から、医学的根拠のあるセルフケア法を紹介します。

※1:Heidari Z, et al. “Prevalence and risk factors of low back pain in pregnant women.” Int J Gynaecol Obstet. 2010


筋骨格系アプローチ|解剖学に基づく妊婦向けストレッチ法

肩甲帯へのモビリティアプローチ

目的:僧帽筋・肩甲挙筋・小菱形筋の緊張緩和と血流促進

妊娠中は胸郭が前方に引き伸ばされることで、肩甲帯の可動域が制限され、肩甲骨の外転・挙上が慢性的に続きやすい状態となります。そのため、肩甲骨の内転・下制運動を中心としたモビリティストレッチが有効です。

肩甲骨内転エクササイズ
  • 姿勢:椅子に深く座り、背筋をまっすぐに
  • 動作:両肘を体側につけて90度に曲げ、肩甲骨を背中で寄せ合うように引き絞る
  • 時間:5秒キープ × 10回
  • 効果:肩甲骨間の菱形筋・僧帽筋中部の収縮誘導 → 筋緊張と血流を改善

骨盤帯ストレッチ

目的:仙腸関節・股関節の滑走性向上、腰方形筋のリリース

妊娠中の骨盤前傾は、腸腰筋の短縮・腰方形筋の過緊張・大臀筋の機能低下を引き起こす。これにより仙腸関節の可動性が低下し、疼痛につながる。

四つ這いでのキャット&カウ
  • 姿勢:床に膝をつき、肩の真下に手、骨盤の真下に膝
  • 動作
     1. 息を吐きながら背中を丸め、骨盤を後傾(Cat)
     2. 息を吸いながら背中を反らせ、骨盤を前傾(Cow)
  • 回数:5〜10回
  • 注意:無理に反らず、腹圧が高まらないよう注意
  • 効果:骨盤可動性と腹部圧力分散機能の改善 → 腰部痛緩和

推奨文献:Stuge B, et al. “Physiotherapy for pelvic girdle pain during pregnancy.” BMJ. 2007


循環器系アプローチ|温熱療法による血流促進

妊娠中は体液貯留量が増加し、末梢循環が不安定になります。特に第3トリメスターでは下大静脈の圧迫により下半身の静脈還流が障害されるため、局所温熱による血管拡張と筋弛緩は有効なアプローチとなります。

ホットパック or 蒸しタオル使用

  • 推奨部位:僧帽筋上部・仙骨周囲・大殿筋・中殿筋
  • 温度目安:40℃前後、時間:10〜15分
  • 留意点:腹部には絶対に使用しないこと。過熱は禁忌。
  • 併用:温熱後にストレッチを行うと柔軟性が最大化される

出典:Goats GC. “Heat and cold in the treatment of pain.” Postgrad Med J. 1994


装具療法アプローチ|骨盤ベルトによる外的安定性補助

妊婦の骨盤帯痛(PGP)や仙腸関節性腰痛は、リラキシンの影響で靭帯が緩み、体内の安定構造が機能不全に陥ることで発生します。これに対し、骨盤ベルトの活用は機械的支持を加えることで不安定性を軽減し、疼痛の緩和に寄与します。

骨盤ベルト装着のポイント

  • 位置:恥骨結合と仙骨のラインに巻きつけ、腸骨稜よりやや下部にフィットさせる
  • タイミング
     - 起床時の立ち上がり前に装着
     - 歩行や家事などの動作負荷がある場面
  • 選び方
     - 通気性と弾力性のあるもの
     - 医師・助産師と相談のうえ選定

推奨文献:Mens JMA, et al. “The efficacy of pelvic belts in the treatment of pregnancy-related pelvic girdle pain.” Spine. 2006


4. 自律神経系アプローチ|呼吸法とマインドフルネスによる神経調整

妊娠期の女性は交感神経優位となりやすく、これが筋緊張・血流低下・睡眠障害を引き起こします。呼吸法やマインドフルネス瞑想は、副交感神経を優位にし、筋緊張の改善や疼痛知覚の緩和を促進します。

妊婦向け呼吸法

  • 姿勢:椅子に背筋を伸ばして座る、または側臥位
  • 方法
     1. 鼻から4秒かけてゆっくり吸う(腹部が膨らむ)
     2. 口から6秒かけてゆっくり吐く(胸郭が縮む)
  • 時間:1セット3分〜5分、1日2回
  • 効果:副交感神経活性化、肩甲挙筋・胸鎖乳突筋の緊張低下、精神的安定

出典:Guardino CM, et al. “Randomized Controlled Pilot Trial of Mindfulness-Based Stress Reduction During Pregnancy.” J Obstet Gynecol Neonatal Nurs. 2014

病院に相談すべきケース|医療的リスクを見逃さないために

妊娠中の肩こりや腰痛は多くの場合、構造的・一時的な不調で済むことが多いですが、以下のような症状がある場合はただちに医療機関に相談する必要があります。これらは単なる筋肉の緊張や疲労ではなく、病的な兆候である可能性があるため、放置せず早期の対応が求められます。

激しい腰痛や下腹部痛を伴う場合

強い腰痛に加え、下腹部に刺すような痛みがある場合、切迫早産・子宮筋腫の合併・尿路感染症・腎盂腎炎などのリスクが考えられます。特に24週以降の腰背部痛+張りは、子宮収縮による早産リスクの可能性もあるため、産婦人科での内診や子宮頸管長のチェックが必要です(※1)。

腰痛と同時に性器出血がある場合

腰痛+出血=内科的・婦人科的な緊急対応が必要な赤信号です。考えられる病態には以下があります:

  • 切迫流産・切迫早産
  • 前置胎盤・常位胎盤早期剝離
  • 子宮頸管無力症

胎盤の位置異常や頸管の開大は、医師によるエコー検査・胎児心拍モニタリングが必須です。整体やセルフケアは一時中断し、早急に受診を。

下肢や殿部へのしびれ・麻痺がある場合

しびれや感覚異常、力が入らない感覚は、坐骨神経・大腿神経・閉鎖神経などの末梢神経への圧迫症状である可能性があり、以下の病態が考えられます:

  • 妊娠性坐骨神経痛
  • 腰椎椎間板ヘルニア(既往歴あり)
  • 妊娠性末梢神経障害(Meralgia parestheticaなど)

これらは神経伝導速度やMRI検査が必要な場合もあるため、整形外科・神経内科と連携した診察が必要になります(※2)。

安静にしても痛みが引かない、もしくは時間とともに悪化する場合

通常の肩こり・腰痛であれば姿勢の改善や温熱で軽快するのが一般的ですが、数時間・数日経っても痛みが強くなる場合は、下記の可能性が疑われます:

  • 感染性疾患(膀胱炎・腎盂腎炎)
  • 深部静脈血栓症(DVT)
  • 骨盤内うっ血症候群

これらは放置すると敗血症・胎児発育不全・胎児機能不全を招くリスクがあるため、痛みの性質・持続時間・発熱の有無なども合わせて記録し、受診の際に医師へ伝えてください。

※1: 国立成育医療研究センター「妊娠中の体の変化と注意点」
※2: Modzelewski K, et al. “Low back pain in pregnancy: diagnosis and treatment.” Curr Rev Musculoskelet Med. 2020

まとめ|妊娠中の肩こり・腰痛は“仕方ない”ではなく“対策できる”症状

妊娠中の肩こりや腰痛は、多くの妊婦が経験する代表的な悩みですが、原因は単なる姿勢の変化や体重増加だけではありません。ホルモンの影響による靭帯のゆるみ、骨盤の不安定化、神経や血流の乱れなど、妊娠による体の変化が複雑に絡み合って発症するものです。

そのため、「仕方がない」と我慢するのではなく、医学的な知識に基づいた正しいセルフケアや、妊婦専門の整体による安全なサポートを取り入れることが重要です。

記事内では、次のようなポイントを丁寧に解説しました:

  • 妊娠中の肩こり・腰痛が起こる体の仕組みと専門的な原因
  • 妊婦でも安心して整体を受けられる時期と、安全性を見極めるポイント
  • 自宅でも実践できるストレッチや温熱ケア、骨盤ベルトの活用法
  • 出血やしびれ、激しい痛みなど、医師への相談が必要な症状の見分け方
  • 実際に整体やセルフケアで改善した妊婦さんたちの体験談

妊娠中の不調は、正しく向き合えば軽減できるものです。**「安全に動く」「無理をしない」「必要なときは専門家に相談する」**という姿勢が、母体にも赤ちゃんにも優しい選択になります。

あなたの体は、出産に向けて日々変化しています。
ぜひこの記事を参考に、妊娠期を少しでも快適に過ごすためのケアを、今日からはじめてみてください。